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東京高等裁判所 昭和61年(く)5号 決定 1986年1月17日

少年 N・M(昭46.9.2生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣意は、別紙記載のとおりであるが、要するに、原決定には重大な事実の誤認ないし処分の著しい不当があるから、その取消を求めるという趣旨に解される。

しかし、記録を調べても、原決定にそのような誤認や不当があるとは認められない。すなわち、右の記録によると、少年は、原決定が「非行事実」として認定したとおり、(一)文京区立○△中学校在学当時から種々のぐ犯行為をし、(二)同級生のAに対し傷害を負わせ、(三)だれかが盗んできて放置していた他人所有の自転車1台を横領し、(四)○○○マンシヨン屋上において、吸引の目的でシンナー1缶を所持したものであるという事実が、十分に認められる(なお、右のうち、(四)のシンナーについては、それを吸引したことではなく、吸引の目的で所持したことが本件の非行事実とされているにすぎず、(三)の自転車についても、少年がそれを窃取したとされているわけでなく、また、少年がいう「バイク窃盗の件」は本件の非行事実には含まれていないのであるから、抗告理由1ないし3は、いずれも少年の誤解に基づくものと思われる。)。

そして、少年は、右(一)(二)の非行により少年鑑別所に収容され、審判の結果在宅試験観察に付されたのに、全く改善の様子が見られず、登校を拒否した上、無断外泊、不良交遊を繰り返し、その間更に右(三)(四)の各非行に及んだものであることが明らかであり、このまま放置すれば更に罪を犯すおそれがあるといわざるを得ない。少年は、抗告理由4において、登校をしない事情などについて種々弁解しているが、正当な理由があるものとは認められない。

以上のほか、少年の年齢、性格、環境等を考えあわせると、原決定が少年を教護院に送致することとしたのはやむを得ないところであるといわなければならない。したがつて、本件抗告は理由がない。

(なお、職権で調査すると、原決定は、少年を教護院に送致するについて、送致すべき教護院を「強制的措置をなし得る教護院」と指定するとともに、少年に対し通算90日を限度として強制的措置をとることができる旨の指示をしているが、右は、保護処分たる教護院送致の決定と、少年法18条2項所定の決定に相当する決定とを併せてしたものと解される。本件のように、児意福祉機関からは同法6条3項による送致がない場合には、たとえ児童福祉司が原裁判所に対し、少年を教護院に送致するとした場合、強制的措置をとり得る教護院が適当である旨、及び教護院にはすでに連絡済である旨陳述したとしても、前記のような取扱いをすることの可否について多分に疑問があるといわざるを得ないが、同法18条2項により強制的措置を指示して事件を児童相談所に送致した家庭裁判所の決定に対しては抗告をすることができない(最高裁昭和40年6月21日二小決定、刑集19巻4号448頁参照)ことに徴すれば、本件において抗告の対象となり得るのは、原決定のうち少年を教護院に送致する旨の部分に限られると解するのが相当であるから、原決定が右の保護処分と併せて、前記の少年法18条2項所定の決定に相当する決定をしたことをもつて、原決定取消の理由とすることはできない。)

よつて、少年法33条1項、少年審判規則50条により本件抗告を棄却することとして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 佐々木史朗 裁判官 田村承三 本郷元)

抗告申立書<省略>

〔参照〕原審(東京家 昭60(少)13920、14881、19750号 昭60.12.16決定)

主文

少年を強制的措置をなし得る教護院に送致する。

少年に対し、通算90日を限度として強制的措置をとることができる。

理由

(非行事実)

少年は

1 昭和60年9月9日豊島区立○○中学校から文京区立○△中学校に転校し、同校2年に在学しているものであるが、○○中学校在学時は同校のいわゆるつっぱりグループの番長であり、教室から抜け出して友達と廊下を徘かいしたり、便所、廊下等で喫煙行為を重ねていた。又同校の卒業生の不良グループや暴走族構成員らと交際している。本年7月からは無断外泊を繰返し、不良交遊、シンナー吸引やオートバイ盗、傷害等を犯し、授業中教室から抜け出して友達と廊下をうろつく等し、このまま放置するとその性格及び環境等に照らし、将来窃盗、傷害、毒劇法違反等の罪を犯すおそれがある。

2 Bと共謀のうえ、同年9月2日午後2時45分ころ、豊島区○○×丁目××番×号○○マンション××号C子方において同級生のAがタイマンを張らないのに張ったとうそをいったことに憤激し、同人に対しこもごも顔面、腹部等を手拳で殴打、足蹴にするなどの暴行を加え、よって同人に加療約10日間を要する顔面打撲皮下血腫、右肩関節打撲症の傷害を負わせた

3 同年10月10日午前1時ころ、豊島区○○×丁目××番○○ビル前路上において、被疑者不詳が窃取し、放置したと認められる所有者不詳の自転車1台(時価5,000円相当)を発見し、拾得したにもかかわらず警察に届出る等の正規の手続をとらず自己の用に供し着服横領した

4 D、E、F、G、Hと共謀のうえ、同年11月17日午前零時20分ころ、豊島区○○×丁目××番地××号○○○マンション屋上において劇物として指定されたトルエンを含有するシンナー約350ミリリットル(但し銀色1リットル缶入り)をみだりに吸引する目的で所持していた

ものである。

(適条)

1 ぐ犯 少年法3条1項3号イ、ロ、ハ、ニ

2 傷害 刑法204条、60条

3 占有離脱物横領 刑法254条

4 毒物及び劇物取締法違反 同法3条の3、24条の3、刑法60条

(処遇意見)

1 少年は現在中学2年在学中であるが、2年に進級したころから不良化が始まり、次第に粗暴化し、家出、不良交遊をなすに至った。そして本件非行1、2により少年鑑別所に入所し、審判の結果、在宅試験観察決定となり動向を観察してきたところ、一向に改善のきざしが見えないばかりか、次々と本件非行3、4を敢行したものである。

現在、全く登校せず、無断外泊、不良交遊が継続している。

2 少年の両親は健在であり、少年の更生に腐心し、それなりに努力をしている様ではあるが、必ずしも意見統一がとれていなく、現段階では監護能力が十分であるとはいえない。

このような次第であるから、この際、少年に安らぎの場を与えて基本的な生活習慣を身に付けさせ、更に少年の能力に相応する範囲で、その社会生活に必要な基礎的学力を養う必要がある。以上を総合すると、少年を強制的措置をなし得る教護院に送致することとし、少年の資質、従前の経緯にかんがみ、少年に対し、通算90日を限度として強制的措置をとることができるとするのが相当であると思料する。

よって、少年法24条1項2号により、主文のとおり決定する。

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